イタリアのシューメーカー、Stefano Bermer(ステファノベーメル)のビスポーク(木型から足に合わせて作るフルオーダー)シューズをお預りしました。
当店の修理でお預りした中でおそらく一番高価な靴と思います。
ビスポークでもあまり作られる機会の少ないジップブーツになります。
私も初めて現物を見ましたが、アッパーに使用されているのは幻の革と呼ばれる「ロシアンカーフ」です。
「ロシアンカーフ」について詳しくは検索して頂ければと思いますが、200年ほど前にイギリス近郊の海に沈んだ沈没船から見つかった「トナカイの革」です。
ロシアンカーフで面積のあるブーツのオーダーなのでとても贅沢な1足ではないでしょうか?
お客様は過去にクリームでメンテナンスをされたことがない模様で、アッパーがカサカサな状態なので、修理と合わせて保革させていただきます。
ブーツの内側にファスナーが付いているデザインですが、お客様は靴を履いていると両足共にファスナーが下の辺りから開いて困るとのことでした。
使用されているファスナーは「YKKの金属ファスナーの3番」です。
財布などの小物に使用されるファスナーなので、見た目はシャープなのですが、歩行時に負荷が掛かる靴には向いていないものになります。
ビスポークシューズなのでサイズ感やブランドイメージの点でファスナー交換修理を行うかは悩みましたが、お客様はこのままでは履けないとの事で修理をお受けさせていただきました。
靴底の底付けはビスポークなので「ハンドソーンウェルト製法」のフルハンド(出し縫いも手縫い)になります。
手作業でしか表現できない作りです。
ここで問題なのが、ジップブーツなのでファスナーが靴底まで巻き込んでいる事でした。
お客様は1番良い方法で修理をして欲しいとの事でしたので、「靴底を分解し、」→「新しいファスナーを取り付け」→「オールソール交換」の手順で作業を進めさせていただく事になりました。
今の作りを再現するようにソール交換は進めさせていただきます。
靴底を分解しました。
伝統技法の「ハンドソーンウェルト製法」の内部構造です。
大まかに説明すると既製靴での「グッドイヤーウェルト製法」の手作業版です。
外からは見えない部分ですが、ハンドソーンウェルト製法はより足馴染みが良いとても理にかなった構造です。
先人たちの技術と工夫に敬意です。
カカト部分は「からげ縫い」をしています。
ウェルトの掬い縫いの一部を剥がし、ファスナーを取り外しました。
そして新しいファスナーを取り付けます。
使用したのは「YKK金属ファスナーの5番」です。
主に靴ではこちらを使用されます。
靴のサイズ感が変わるのが心配でしたが、問題はなさそうです。
靴底を付けても違和感はなく仕上がります。
ファスナーの動きは改善されたので安心して履いて頂けると思います。
もちろんファスナーはソールの中まで巻き込まれています。
靴底も元の作りをイメージしてソール交換しています。
レザーソールを元の形状で再現し、濃いブラウンに染めて仕上げました。
つま先は「luluヴィンテージスティール」で補強しています。
トップリフトもラスターのレザーです。
本来修理ではお受けしていませんが、出し縫いは機械ではなく手で縫いました。
コバ周りもしっかり仕上げたので、
引き締まった印象です。
これで安心して履いて頂けますね。
アッパーはクリームでの「靴磨き」でしっかり保革させていただきました。
革の吟面(表面)が細かく割れているので修復は出来ませんが、保革する事で割れが広がるのを防げます。
始めの状態より革の印象が良くなったと思います。
お客様には大変喜んで頂けました。
ビスポークシューズは職人の意図が多く詰め込まれているので、「オールソール」はお作りした工房で修理することをオススメします。
「ハーフラバー」「トップリフト交換」「ヴィンテージスティール」などの修理だとお受けしていますが、ビスポークシューズのオールソール交換はお断りさせていただくこともあるのでご了承お願い致します。
ありがとうございます。
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